まず食事の問題から。



 ロマリア半島から北の山脈に位置するカザーブ村へ向けて、サーラたちはジャックという男を道案内にして発った。
 出発した日の夜、小さな集落で野営を張ることとなり、役割分担を言い渡そうとした時のことだ。銀髪の軟派な男は、質問する学徒のようにひょいと片手を挙げた。
「あのさ、確認しておきたいんだけど。食事当番ってどうなってんの?」
 アリアハンを発ってから一月余り。ようやく旅慣れてきた所で見知らぬ他人が同行することになったため、サーラは簡単に説明した。
「下ごしらえなどはアルトとモエギに頼んで、調理は主に私がしている」
「そうだな、しばらくの間はジャックにも手伝ってもらわないと!」
 アルトは同性が増えたため、心なしか声が弾んでいる。初対面から喧嘩腰のモエギは、試すようにジャックを一睨みした。
「あんたこそ、料理とか出来るの?」
 いかにも食事処を頼りにしていそう、と思われたのがしゃくなのか、ジャックも負けじと胸を反らし、荒い鼻息をつく。
「それなりに出来るぜ。少なくとも、おチビさんよりは家庭的なんでね」
「何ですって!? あたしだって、皮むきとか火をおこすくらい出来るんだからね!」
「それは料理の域に入らねーと思うけど? お前、思い立った時にだけ菓子作りとかするタイプだろ。絶対そう」
 決めつけるな、と憤慨するモエギを意地悪そうに眺めるジャックに嘆息し、サーラは頭を抱えた。この調子では、先が思いやられる。
「ガキか、お前たちは……。とにかく、夕食の準備をするぞ。アルトとジャックはどこかの家に薪を分けてもらいに行ってくれ。モエギは、近くに川があるから水を汲んできてくれないか?」
 それぞれが返事をし、散っていく。サーラはロマリアで調達した食糧から、今日の献立を考える。
 海に近いロマリアでは魚の燻製や塩漬けといったものが豊富で、いくつかまとめて買い込んである。今日は燻製を炙ったものと、木の実のスープにしよう。
 献立が定まると、サーラは茶色く変色した片手鍋を荷袋から取り出し、木の実を大きめの葉っぱに広げ荒く叩き始めた。丸ごとだと煮えるのに時間がかかるし、かといって細かく砕くと喉の通りが悪くなる。
 三人が戻ってくると、サーラの指示でアルトとジャックが焚火をおこし、モエギには簡単な作業を手伝ってもらう。青魚の燻製の焼き具合は三人に見てもらい、スープの味見をすると、どこか物足りないと感じる。
「どれどれ、お料理上手なサーラさんの特製スープのお味は?」
 ジャックがすぐ隣にしゃがみ込む。仕方なく味を見させると、男は口の中で舌を転がし、しばし思案する。
「うーん、薄すぎかな」
「やはり、そう思うか?」
 燻製に塩気があるので、スープは淡白にしようと思ったのだが、これでは満足いく食事にならない。やりとりを聞き、アルトとモエギも意見を交わす。
「木の実だけだと、旨味が足りないかもね」
「サーラ、他に使えそうな食糧はないのか?」
 尋ねられ、食糧の入った袋を探ると、チーズを包んだものが目に入った。硬めだが、スープに溶かせば良い具合になるかもしれない。
 早速チーズを二かけ程度スープに投入すると、一気にコクと旨味が加わった。燻製も焼き色が付いた頃合いで手に取り、保存食用のパンと共に食した。
「うん、ウマいね! いやー、女性の手料理、それもこんな美女が振る舞ってくれりゃ、いつまでも食っていたくなるね」
 ここぞとばかりに褒めちぎるジャックの口振りは胡散くさいが、他人にうまいと言ってもらえるのは素直に嬉しい。
「それはいいけど、ジャックは結局、料理出来るのか?」
 とろみのついたスープをすすりながら、アルトが尋ねる。モエギも注目すると、ジャックは手をひらひらと振ってみせた。
「まあ、サーラさんにはかなわないけど、お手伝いなら出来るかな。おチビさんよりは年上なんで」
「何なのよ、その言い方。あんたなんてどうせ味にうるさいだけの男でしょ」
「おう、そんなら明日お前一人で味付けしてみろよ。オレが批評してやるから」
「あんたホント何様のつもり!? いいわよ、明日はあたしが全部食事用意するから!」
 売り言葉に買い言葉で、翌日はサーラの助言も断り、モエギが一切の食事を作ることとなった。が、総評は味付けが濃すぎるの一言で片付けられ、それ以来モエギが味付けをすることはなくなった。
 だが、その後、モエギがサーラに教わり、秘かに料理の特訓をしているのは、二人だけの秘密である。



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