「ファーストキスは…誰とだったっけ」



 カザーブの酒場にて――
「お前さあ、なんだかんだ言って男と付き合ったことないんだろ?」
 何杯目かのおかわりを待つ間、ジャックは木製のカウンターに頬杖をついて薄笑いを浮かべた。モエギはジンジャーエールを一口飲むと、グラスを叩きつけた。
「それが何だっていうのよ?」
「いや、ファーストキスもまだのお子ちゃまなのかなーと思ってよ」
「うっさいわね。そういうあんたはどうなのよ?」
 マスターからウォッカのグラスを受け取ると、ジャックは口をつけず、ぼんやりと虚空を見つめた。
「ファーストキスは……誰とだったっけ」
「覚えてないの?」
 尋ねると、ジャックはにやりと口角を上げた。
「お前と違って、経験豊富ですから」
「うわっ、不潔」
 軽くのけぞる。どうせ本気で付き合った女などいないに決まっているのだ。モエギは声を強めた。
「あたしは、あんたと違ってファーストキスは大事にとっておくの! そんでもって一生忘れないの!」
「だろうな。もう死ぬか忘れるかの瀬戸際かもしれねーし」
「……言ったわね白髪のくせに」
「垂れる胸もないくせに」
 そんなやりとりを繰り返しながら、夜は過ぎたのだった。

お題提供:リライト