ふたりの盗賊 5



「あー……頭痛え……」
 深夜モエギと共に戻ってきてそのまま寝たというジャックは、どれだけ飲んだのか朝から二日酔いを訴えた。
「あたしも……頭がガンガンする……」
 モエギまで調子が悪いので、とにかく相当張り合ったのは確かだ。サーラは宿の小さな食堂で朝食を摂りながら、嘆息した。
「お前たち、いくら酒豪でも分をわきまえろ。私たちはカンダタ一味を捕らえるためにこの村まで来たのだぞ?」
 そして隣でハムエッグを切り分けるアルトを軽く睨んだ。
「アルト、お前もお前だ。元はといえばお前がモエギたちをそそのかしたのだぞ」
 アルトはナイフとフォークで器用にハムエッグを裂きながら、叱られたいたずらっ子のように口を尖らせた。
「分かったよ、悪かったな」
 少々生意気な口振りではあるが、この様子からすると昨晩のことはもう自分なりに消化したのだろう。サーラは口調を和らげた。
「……仕方ないな。後で二日酔いの薬を煎じてやる」
「サーラ、そんな事出来るのか?」
「ああ、剣を始めるまではそういうことの方が得意だったからな」
 モエギと目を合わせると、互いに微笑んだ。モエギには数回処方したことがあるのだ。ジャックも弱々しく反応した。
「よよよ……サーラさん優しい……ますますホレそう」
「安心しろ、お前には特別苦く調合してやる」
「……サーラさんってさ、もしかしてS?」
 ジャックの問いかけを無視し、サーラはモエギとアルトに話しかけた。
「私とモエギは道具屋で調合に使えそうな薬草を揃えてくるから、お前はジャックを連れて先に武器屋へ行ってくれ。後から合流する」
 なんかオレ犬みたい、とジャックがぼやくが、アルトは快くうなずいた。
 この調子では出発は明日になるな、とサーラは胸中でつぶやき、サラダ菜を噛み砕いた。



 高地にある村のせいか、薬草の品揃えは思いのほか良く、サーラは思い通りの買い物をすることが出来た。
 買い物を早々に済まし、サーラとモエギは武器屋に向かって村を歩いていた。
「ところで、昨日の晩は結局どうだったのだ?」
 まだ頭痛を抱えているモエギは、額を押さえうなだれながら答えた。
「うーん……あたしもあいつも、グラスに十杯までいった所まで覚えてるんだけど……」
 脳を働かせると頭痛がひどくなったらしく、モエギは立ち止まり頭を抱えた。声をかけると、モエギは苦笑混じりにサーラを仰いだ。
「サーラ、あたし先に武器屋行ってるから、宿に戻って薬の調合してて? あたしたちが帰ってきたら、すぐ飲めるように……お願いね」
 丁度宿の前だったので、サーラは承知し、モエギと別れた。
 部屋に戻ると、サーラは手持ちの道具で薬草をすりつぶし、宿の主人からポットに湯を分けてもらい、薬湯を作り始めた。
 各種の薬の作り方は、育ての親だった神父が教えてくれた。故郷にも沢山の薬草が生えていたため、子供の頃はよく神父の手伝いをし、薬による治療を老人や病人に施していたものだ。
 冒険者になってからも薬草の扱いには長けていたが、調合をするのは久し振りだった。サーラにとって調合の一時は心落ち着く大事な時間だったが、いつしかそれも薄れてしまったようだ。
 薬湯が出来上がる頃、廊下から慌ただしい足音が聞こえ、扉が激しく叩かれた。
「サーラ、入るぞ!」
 有無を問わず、アルトとジャックが血相を変えて部屋に入ってきた。手に荷物を持っていたので、買い物は終わったのだろう。
「どうした? そんなに慌てて……」
 言いかけて、モエギの姿がないことに気付く。問い質そうとすると、アルトが先に告げた。
「モエギが、さらわれたんだ!」
 その瞬間、全身が凍りつくような感覚に襲われた。
「……いつ」
「分からない、けどそんなに時間は経ってないはずだ!」
 目撃した村人の話によると、数人の柄の悪そうな男たちがモエギを連れ去ったのだという。
「そいつら、まさか――」
 がん、とジャックが扉を殴り、低くつぶやいた。
「……間違いねえ、奴の手下だ」
 ジャックの若葉色をした瞳が、怒りでぎらついている。これほどまでに真剣な表情を見たのは初めてだった。
「聞いた話では、奴らは西に逃げたらしい。そして、西の海岸沿いには、シャンパーニの塔っていう、もうずっと使われていない灯台があるらしいんだ」
「くそっ、何でそれをもっと早く……!」
 サーラは歯を軋ませた後、ふと思った。
 普段のモエギならば、おそらく捕まったりはせず、蹴散らし逃げることくらい出来るはずだ。
 だが、重度の二日酔いだったモエギが、一人で太刀打ち出来るはずがない。
「……私のせいだ」
 私がついていてやれば――サーラは茫然とつぶやき、肩を落とした。
 そんなサーラを見かねてか、アルトが歩み寄り肩を叩いた。目の前の少年を見つめると、アルトは苦笑した。
「あんまり自分を責めるなよ。モエギのことはサーラが一番よく知ってるだろ? モエギのこと、信じろよ」
 アルトの言葉に、サーラはわずかにうなずいた。少年に励まされるのは少ししゃくだったが、確かにサーラの知っているモエギは、さらわれたぐらいで弱気になるような女ではない。
「……すまない」
 アルトは安心したように微笑むと、ジャックを振り返った。
「ジャック、サーラが薬を作ってくれたから、早く――」
 ジャックはアルトが言い終わらない内にサーラの手から椀を取り、一気に飲み干した。
 深く息をつくと、ジャックは瞳を据えた。
「……ったく、一番厄介な奴が捕まっちまったぜ」



 暗闇の中で、まだ頭痛がしていた。それに、身体中があちこち痛い。どこか、ひどく安定感のない場所に寝かされているようだ。
 サーラと別れて、武器屋に行こうとすると、茂みの中から得体の知れない男たちが群がってきて、抵抗しようとして――
 そこで飛び起きると、したたかに尻を打った。思わず悲鳴を上げると、前方と右側に見覚えのある男たちが映った。
「よお、お目覚めか?」
 前に座っていた禿頭の男が振り向く。どうやらむき出しの荷馬車の上で寝かされていたらしく、全身が痛みを伴っていた。
「嬢ちゃん、丸一日気ぃ失ってたみてぇだな。腹減ってねぇか?」
 右側の男は顔が毛むくじゃらで熊のようだった。熊男は腰袋から干し肉を出し、モエギに放り投げた。何とかそれを受け取ると、腹が大きな音を立てて鳴った。
「大丈夫だ、毒なんか入ってねぇから食えや」
 ついでに竹で出来た水筒まで差し出してくれた。モエギは怪しむように食料と男たちを見比べてから、干し肉を口に入れた。
 よく燻製された干し肉は甘辛く、いくつもの香辛料が使われており後を引く味だった。あっという間にたいらげてしまい、水を半分くらいまで飲んだところで、モエギはやっと口を利くことが出来た。
「手荒な真似してくれた割には、そこそこ気が利くじゃない」
 寝心地は最悪だけど、と付け加えると、男たちはちげえねえやと豪快に笑った。
「悪いなあ。おれたちゃ戦利品を運ばなけりゃいけねえから、いっつもこのオンボロを走らせてるわけよ」
 禿頭の言葉に、モエギは頭が冴え渡るのを感じた。
「あんたたち、まさか……!」
「そうさ、おれたちが巷で噂の、カンダタ盗賊団だ」
 堂々と誇らしげに胸を張る男たちに、モエギは掴みかかろうとしたが、力が入らずへたってしまった。
「ちょっと、身体が言うこと聞かないんだけど……! やっぱり何か混ぜてたんでしょ!」
「さぁな。おれたちゃ知らねぇぜ」
 シラを切る熊男を睨みつけるが、それだけで精一杯だった。
「ていうか、何であたしをさらったの? もしかしてあたしたちのこと、知ってたの?」
 盗賊団と名乗るくらいなら、世間の事にも多少は通じているはずだ。オルテガの息子であるアルトのことを耳に入れていてもおかしくはない。
 それで、一番か弱そうな自分を人質に――モエギが真面目に考えていると、禿頭が答えた。
「知ってるも何も、嬢ちゃんあの白髪のコレだろ?」
 太い小指を立て、禿頭は顔をにやつかせた。
 白髪といえば、間違いなく該当する奴は一人しかいない。
「はあっ!? 何であたしがあいつの! ていうかいつ、どこで何を見たのよ!」
 絶叫すると、男たちは揃って耳を塞ぎ、迷惑そうな顔をした。
「……一昨日の晩、村に盗み入ろうとしたら、酒場から嬢ちゃんとあの白髪が一緒に出てくるのを見たんだよ。しかし何だってあいつがカザーブに来てたんだ?」
「聞きたいのはこっちなんだけど! 何であたしがあいつの恋人ってだけであたしをさらうの?」
 頭がこんがらがり、思いきり不機嫌な顔をすると、熊男が忌々しげにつぶやいた。
「あいつぁ……ジャックは、お頭の永遠のライバルなんでぇ」



 その後モエギは何度か逃げ出そうとしたが、男たちは大して悪さをするでもなく、それ程ぞんざいな扱いもされなかったので、いつの間にか逃げる気も失せてしまった。彼ら曰く、モエギは「色気がなさすぎて手を出す気にもなれん」らしい。
 それはともかくとして、彼らからは様々な話を聞いた。
 カンダタとその手下である彼らは、元々はロマリア南東のアッサラーム地方で活動している盗賊団にいたという。それはジャックからも聞いていたが、そこから先は全て初耳だった。
 カンダタはその中でも一、二を争う盗みの腕を持った盗賊だったが、その座を新参者のジャックに奪われてから、ジャックを目の敵にしていたのだという。二人は何かにつけて張り合い、カンダタはいつもジャックに勝てなかったらしい。
 略奪行為だけを行っていた盗賊団は、次第に別の悪事に手を染めるようになり、カンダタは個人的に自分を慕う者たちを連れて団を抜けた。ジャックが言っていた方向性の違いというものだろう。
 だが団を離れた今でも、カンダタはジャックとのことを気にかけており、モエギをさらったのはジャックをおびき寄せてこてんぱんにしてやりたいという、カンダタの野望を叶えるためなのだという。
 手下の男たちも、ジャックが前の盗賊団の頭領に気に入られていたことを話し、青二才のくせに生意気だと歯噛みしていた。
 モエギはそれらの話を聞き、ジャックとの関係や、アルトやサーラのことを黙っておくことにし、一応ジャックとは恋人同士と誤解されたままにしたが、それは非常に不愉快なことだった。
 それを真に受けた手下たちは「女にだけはフラれ続けていた奴が……!」とジャックを妬んでいたが、その一方でお頭と趣味が似てきたなとこぼす者もいた。
 モエギがおそるおそる尋ねてみると、カンダタは若干ロリコンの気質があるのだと笑って言われた。
 ジャックと張り合っていたカンダタという男を知りたいような、知りたくないような――モエギは不安を抱えながら、荷馬車に揺られ戻れない道をただ進んでいった。
 連れ去られてから数日後、辿り着いたのは大平原にぽつんとたたずむ、古めかしい塔だった。
 その昔はポルトガの灯台だったらしいが、国が新しい灯台を建設したため使われなくなり、それを見つけたカンダタ一味がねぐらを張ったのだという。
 着の身着のままさらわれたモエギが逃げてものたれ死ぬだけなので、特に拘束もされず、おとなしく手下たちと共に塔を登っていった。
 灯台だっただけあり、階を上るにつれ見晴らしは良くなり、広大な海原が望めた。カンダタがこの塔をねぐらに決めた気持ちも分からなくはなかった。
 やがて上の階に辿り着くと、モエギを連れてきた手下たちと合わせて六人の盗賊が揃い踏みした。いずれも柄の悪そうな男たちだが、モエギは子供扱いされるだけで、複雑な気分だった。
「へぇ〜、こんなおチビちゃんがジャックの!」
「うるさいなあ、あたしそうやって言われるのが一番嫌いなんだけど」
「まあまあ、お頭ならきっとたっぷり可愛がってくれらぁ」
 口々にからかう手下たちを相手取っていると、階段を震わせながら一人の男が降りてきた。
 皮の腰巻を履き、素肌の上に胸当てと毛皮のマントを纏った、覆面の大男。手下たちとは体格も雰囲気も一味違う。
 大男は覆面に手をやると、一気に面を表した。
「よく来たなァ嬢ちゃん。オレが天下一の大盗賊、カンダタだ」
 覆面をはがしたその顔は、三十代半ばぐらいの意外とまともな男だった。髪は短く、眉は太い。決して二枚目ではないのだが、根っからの悪人にも見えなかった。
 しばし呆然としていたので、カンダタは何を勘違いしたのか気分を良くしてモエギを見下ろした。
「おう、オレがあまりにもいい男なもんで見惚れちまったか? いいぜェ、オレも嬢ちゃんは好みだ」
 カンダタが一歩近付くと、身長差があるためか壁が迫ってくるような感覚に襲われ、モエギは素早く後ずさった。
「怖がるなよ。ほら、こんなへんぴな所に住んでると、女なんかとは一切ご縁がなくてよォ。日の明るい内によーく面を拝んでおきたいのさ」
 周りで手下たちが笑い声を上げる。モエギは唇を噛み、きっとカンダタを睨み据えた。
「どんな奴かと思ったら、やっぱり盗賊なだけあって卑しい奴みたいね。これならまだあいつの方がマシだわ」
 手下の一人が耳打ちすると、カンダタは興味深そうにモエギを眺めた。
「へェ、嬢ちゃんあの白髪の。あいつ、モテないからってついに守備範囲を広げたか!」
 モエギ以外の全員が爆笑した。哄笑の渦の中で、モエギは耐え難い屈辱感を感じた。だが今暴れても勝ち目はない。
 こみ上げる怒りを押し殺し、モエギは本題に入った。
「あんたたちのことは聞いてる。ロマリア王家の金の冠を盗んだんだってね。何でそんなことしたの?」
 わざわざ盗賊団から分裂してまで盗みを働く理由が、どうしても知りたかった。モエギの視線を受け、カンダタはにかっと黄色い歯を見せた。
「いいだろう、嬢ちゃんには特別に教えてやらァ。
 ――オレらは、有名になりてェんだ」
 真意がつかめず、モエギは眉をひそめた。カンダタは太い腕を組み、天井を仰いだ。
「ただこの稼業が好きなのもあるけどよ。オレらはもう、今更まっとうなことしたって駄目なのさ。なら、盗賊として名を上げて、歴史に残るような大盗賊になってやろうって、こいつらと誓ったのさ」
 手下たちもうんうんとうなずく。皆カンダタを尊敬の眼差しで見つめている。それを誇らしげに見渡し、カンダタは続けた。
「金の冠を盗んだのも、いわば売名行為よ。特にロマリア王家に恨みはねェんだが……売るにもやべェもんだし、今は宝箱の中でおねんねよ」
「じゃあ、返してくれない? あたしたち、実はロマリア王の依頼を受けてるの」
 手を差し出すと、カンダタはまじまじとモエギを見つめ、大声で笑った。
「へェ〜、となると、白髪もか? つーことは賊抜けしたのか。今更王族に媚び売って何になるってんだよ」
 つまらなさそうに唾を吐くと、カンダタはモエギの手首を掴み、引き寄せた。
「嬢ちゃん、あんな奴なんかより、オレといた方が楽しいぜェ? 宝石だって服だって何だってやるよ。嬢ちゃんがオレを楽しませてくれたらなァ」
 野卑な笑みをこぼすカンダタ。やっぱり会うんじゃなかった、とモエギは心の中で悔いてから、掴まれた方の腕をぐんと伸ばし、身体をひねって思いきり裏回し蹴りを喰らわせた。我慢の限界だった。
 カンダタはよろめいて後方に下がり、先程までとはうって変わった目つきでぎろりとモエギを睨んだ。モエギも負けずに睨み返し、言い放った。
「残念でした! あたしはもっと誠実で、優しくて品のいい男が好きなの! あんたなんかこっちから願い下げだもんね!」
 舌を出してみせると、カンダタは額に青筋を走らせ、怒声を上げた。
「こんの……おい、おめェらやっちまえ!」
 カンダタの命令が響くと、すぐさま数人の手下たちが襲いかかってきた。
 さすがにこの人数だとまずい。モエギは手下たちの攻撃をかわし、とっさに少年の顔を思い浮かべた。
(アルト君――!)
 手下たちは容赦なく短刀や鎖鎌などを繰り出してくる。モエギを塔まで連れてきた禿頭や熊男も別人のように襲いかかってくる。
 モエギは紙一重でそれらを避けていたが、反撃の余地もなかった。
 瞬間、鎌が右腕をかすめ、服が裂け鮮血が滲んだ。モエギは傷口を押さえ、奥でしたり顔を浮かべているカンダタに怒りの眼差しを向けた。
「あんた、女の子をよってたかっていたぶらせて、少しは罪悪感を覚えないの!?」
 カンダタは肩をすくめ、冷徹な笑みを覗かせた。
「覚えるさァ。だが、オレに逆らった嬢ちゃんが悪い。嬢ちゃんが泣いて謝るまで、オレァ許さねェ」
「……最っ低……!」
 嫌悪感を詰め合わせにしてカンダタへ送り飛ばす。右腕が不快な熱を帯びて痺れてきた。
 こんな状態では勝てない。いや、元から勝ち目などない。
 人生最大の不運に、モエギは思わず瞳を潤ませた。
「おうおう、やっと分かったみてェだな」
 カンダタがずかずかとモエギの前に歩み寄り、屈んで顔を近付けた。モエギが鋭く睨むと、カンダタはほくそ笑んだ。
「嬢ちゃん、恨むんなら自分か、あの白髪野郎にしてくれや」
 カンダタがモエギに手を伸ばそうとすると、背後から刃のようなものが飛んできて、カンダタはそれをすんでの所でかわし飛び退いた。壁に短剣が刺さり、ダーツのように振動する。
 まさか――モエギは身体ごとねじり、後ろを振り返った。
 暗い通路でも、その色は目に見て取れた。
「相変わらず女の子にちょっかい出すのが好きだねえあんたも。どこのクソガキだよ」
 ゆっくりと姿を現したのは、紛れもなく見覚えのある、銀髪の男だった。
「ジャック……」
 その肩越しには親友と、待ち望んでいた少年の姿もあった。それを確認した途端、視界が大きく歪んだ。
「モエギ! 大丈夫だったか!?」
 アルトとサーラが駆け寄る。モエギは唇を噛み、しきりにうなずいた。いつも大人ぶっている自分は、どこにもいなかった。
「怪我してるじゃないか! すぐホイミしてあげるよ」
 傷口に手をかざし、アルトが呪文を唱えると、痛みが嘘のように引いた。
「……ありがと……アルト君」
 震える声を押し殺して礼を述べると、アルトは笑顔でうなずいた。ずっと会いたかったはずの顔は、ぼやけて見えた。
「モエギ、すまなかった……」
 サーラが両肩に手を置いた。優しい感触に甘えそうになるが、モエギは首を横に振る。
「大丈夫……ちょっと捕われのヒロイン気分、味わえたし」
「軽口を叩けるくらいなら、心配はいらないな」
 しばらく下がっていろ、と後ろに回され、モエギは仲間たちの背中を見つめた。
 温かく頼もしいその姿に、モエギは溢れる涙を拭った。