ふたりの盗賊 2



 アリアハンの遥か北西に位置する大陸に存在する、ロマリア半島。かつてアリアハンから旅立った多くの冒険者たちは、皆その半島に築かれた美しい国に出迎えられたという。
 いざないの洞窟から旅の扉に導かれ、新たな土地を踏みしめたサーラたちは、やがて草原の向こうにそびえる青い尖塔を発見した。
「城だ!」
 アルトはたちまち目を輝かせ、長旅の疲れをも吹き飛ばす勢いで駆けていった。アリアハン以外の世界を知らなかった少年の無邪気な様子に、サーラもわずかながら口元をほころばせた。
「全く、しっかりおもりをしてやらないとな」
 ため息混じりにつぶやくと、モエギが妙に嬉しそうな顔でサーラを見た。
「サーラ、なんだかんだ言ってアルト君のこと気に入ってるみたいだね」
「なっ、私はただ危なっかしくて放っておけないだけだ!」
「ほら、いい反応するようになったじゃない」
 抗議の声を上げてもなお、モエギはにこにこと笑顔を浮かべていた。
 そうこうしている間にアルトが大分遠くに行ってしまったので、サーラとモエギは走って後を追った。
「へー、ここがロマリアか!」
 城下町に辿り着いたアルトは、辺りを見回しながら軽快に町を闊歩する。人が多いので、サーラたちはアルトとはぐれないように注意を払いつつ、ロマリアの町並を見物した。
 町民だけでなく、旅人の姿もちらほらと見受けられ、芝生や花壇の手入れも行き届いている。美しく活気のある城下町のようだ。
 町の中央には大きな噴水があり、子供や老人が多く集まって春のうららかな空気を味わっている。その先には、青い屋根と白壁の見事な城が、町を見守るように存在していた。
「そうだ。大きな国を訪ねた時は王様に挨拶するようにって、母さんから言われてるんだ」
 アルトが思い出したように振り向き、一息ついてから城へ行こうと提案した。サーラとモエギもうなずく。
 一旦宿へ向かおうとすると、見回りらしき兵士がアルトの姿を見るなり、急ぎ足で近寄ってきた。
「あの、もしや貴方は、アリアハンのアルト殿では……」
「はい、そうですけど」
 すると兵士は改まった様子で、かかとを鳴らし敬礼した。
「先日のアリアハンからの伝書により、貴方がたのことは伺っております。到着した際には早急に城へ招くよう、我が国王から仰せつかっております」
「なんだ、王様がちゃんと手配してくれてるんじゃない。良かったねアルト君」
 モエギが微笑みかけると、アルトも笑顔でうなずいた。サーラはそのやりとりが少々気に食わなかった。
 鎖国をしているくせに、英雄の子息であるアルトについては他国にも援助を煽ろうというのか。そしてロマリア側もそれを快く受け入れるだろうか。
 そんなうまい話があるはずがない。サーラは気を引き締めた。



 きらびやかな深紅の装束に身を包んだロマリア王は、初老にしては若々しく、気さくな国王だった。
「よくぞ参った! 英雄オルテガの名はこの地にも古くから伝わっておる。その息子であるおぬしに会えるのを、わしは心待ちにしておったのだ」
 アルトは片膝を絨毯についた姿勢で、礼儀正しく言葉を返した。
「こちらこそ、お目にかかれて光栄です。国王陛下」
 つい数時間前まで目をきらきらさせて城下町を歩いていた姿からは全く想像出来ない態度に、サーラはアルトの背後で不満げに口を尖らせた。
 ルイーダの酒場での立ち振る舞いといい、普段とのこの差は何なのか。どれだけ親の育て方が上手いのだろうと疑問に思う。
 それとも、サーラがアルトを斜めに捉え過ぎているのだろうか。
「ふむ、なかなか良い面構えをしておるな。旅の目的は、父と同じく魔王討伐を掲げておるようだが」
「はい。今はまだ父には及びませんが、この旅で力をつけ、必ずバラモスを討ち取ってみせます!」
 アルトは拳を握り、意気揚々と宣言した。それを満足そうに眺めると、ロマリア王は口元を結んだ。
「うむ。だがその道程は果てしなく、険しいものになるであろう。目標を高く持つのも良いが、まずはそれを目先のことに向けてはみまいか」
「……と言いますと?」
 アルトが小首を傾げる。やはり何か仕掛けてくる気だ。サーラは王の発言に注目した。
 ロマリア王は玉座に肘をつき、顎を撫でつけ口を開いた。
「我がロマリアは魔物も多く出没しておるが、それ以上に手を焼いておるのが、カンダタという輩の率いる盗賊団なのだ」
 盗賊団、と三人同時に復唱すると、王は声音を落とした。
「どうやらこの城下町から北のカザーブにかけての山中で活動しておるらしいのだが、つい先日、奴らがこの城から金の冠を盗みおって、今は兵士たちに消息を探らせておるのだ」
「ですが、未だ尻尾がつかめず、我らも手をこまねいているのです」王の隣で大臣がうめいた。
「……それを私たちに探らせる、という事ですか」
 サーラが尋ねると、ロマリア王は視線を移し、感心したようにうなずいた。
「その通り。察しが良い」
 サーラは頭を下げた。だが、旅立って早々一国の王の使いを引き受け、旅が滞ったりはしないだろうか。
 それが顔に出たのか、ロマリア王は苦笑した。
「なに、おぬしたちはアリアハンを出て間もない。おぬしたちだけの力で目標をやり遂げることは難しいだろう。わしも出来る限り力になりたいのだが、それに見合うだけの力を持ち合わせておるのか、試させて欲しいのだ」
「じゃあ、その盗賊団の件をこなせば……」
 モエギの問いかけに答えるように、王は口角を上げた。
「うむ、おぬしたちを魔王に立ち向かうに相応しい者と見なし、惜しみない援助を約束しよう」
 やはりそういうことなのか。サーラは予想範囲内の返答にうなずいた。
 それだけ、オルテガの息子というのは特別な期待を寄せるに値する存在なのだ。
 アルトはしばし黙っていたが、やがて決意したように声を張り上げた。
「分かりました。必ず金の冠を取り戻し、国王陛下のご期待に添えてみせます!」
 威勢の良いアルトの返事を、ロマリア王は愉快そうに受け止めた。



「いきなり盗賊退治か〜。燃えるねアルト君!」
 謁見の間から退出するなり、モエギは両手を握りしめアルトをあおった。
「ああ、俺もわくわくしてきた! 絶対認めてもらうぞ!」
 二人揃って見えない炎をたぎらせる姿に呆れつつ、サーラは状況を整理した。
「お前たちは……まだそのカンダタという輩がどこにいるかも分からないのだぞ? まずは奴らの情報を集めないと」
「あ、そりゃそうか」
 アルトはのんきに返す。モエギもそうだね、と思案を始めた。
「昼間小耳に挟んだんだけど、ここの城下町には格闘場って所があるんだって。多分人も多いだろうし、面白そうだから行ってみない?」
「よし、行ってみようか!」
 アルトも賛成し、モエギは調子よく先頭を歩き出した。
 モエギとアルトは妙に波長が合っており、物事をあまり深く考えず直感で行動する。そんな二人に冷静な判断や考えでフォローするのがサーラだった。
 世界を救う冒険者が、こんな調子で大丈夫なのだろうか。
「サーラ、どうしたんだ?」
 気が付くと、アルトが前方で待っていた。モエギは既に扉まで辿り着こうとしている。サーラは眉を曇らせ髪をかき上げた。
「お前、行動すれば何でも上手くいくと思っていないか? そんなのんきな気持ちで構えていたら……」
 言いかけると、アルトは戻ってきてサーラの口の前に手をかざした。
「じゃあ逆に言わせてもらうと、あんたは身構えすぎだよ。もっとさ、気楽にしろよ」
 サーラが口ごもると、アルトはにっこり微笑み、モエギの後を追っていった。
「……悪かったな、堅物で」
 低くつぶやくと、サーラも足を速め扉へ向かっていった。